閾値走とは何か。その効果とトレーニング方法

T(閾値)強度は、言わば快適なきつさである。確かに、比較的速く走ってはいるが、そこそこの時間(練習なら20~30分間)維持できる、というペースだ。レースなら、休養をとってピーキングすれば60分間は維持できる。

ダニエルズのランニング・フォーミュラ

閾値走とは、持久力を必要とするマラソンのタイム短縮のために実施する、持久力向上に極めて有効な練習方法です。

足を交互に前に出す簡単なお仕事のようにも思える”走ること”。

しかしフルマラソン(42.195km)のような長い距離を、速いスピードで走るために必要だと言われるトレーニングには様々なものがあります。

効率的に、短期間でマラソンのタイムを短縮していくためには、日々どんなトレーニングを選択していくかが非常に大事です。

その中でも、フルマラソンを速く走るための練習としては非常に効果が高く、基本のポイント練習の1つとするのにふさわしいのが閾値走(閾値トレーニング、LT走、テンポ走)と言えます。

なぜ、そんな事が言えるのか。

自分が経験したからです。

私が実際にサブ4未達からサブ3達成まで記録を伸ばせた理由の1つに、基本のポイント練習にしてやってきたのが閾値走だったからですし、多くの市民ランナーも閾値走でマラソンのタイム短縮を実現しています。

「閾値走って何だ?」 「閾値走ってたまに聞くけど、本当に効果があるのか!?」 「Tペース走でフルマラソンが速くなるのか!...

そんな閾値走のやり方、効果、注意点についてご紹介します。

閾値走を実施する前に

「よし、これから閾値走をやってみよう!」

と考えているランナーの方が、まず一番はじめにやって頂くこと。それは

POINT

自分のVDOTを確認すること

です。

VDOTとは、一言で言えば

「走力を測る”ものさし”」

のようなものです。

自分がどれ位の走力なのかを、数値で明確に理解する事が出来ます。

VDOTについての詳細はこちらの記事を見て頂きたいですが、VDOTの確認方法だけ簡単に。

VDOTとは VDOTとは「現在の走力のものさし」です。 ジャック・ダニエルズ氏が著書「ダニエルズのランニング・フォ...

VDOTの確認方法

VDOTを確認するための一覧表は以下の通りです。

表の右下「次」ボタンをクリック(タップ)すれば、表示のVDOTより高い数値のVDOTを確認出来ます。

VDOT5km10kmハーフフルEMTIR
3030'4063'462'21'044'49'177'526'516'24-2'16
3129'5162'032'17'214'41'577'416'41614'-2'12
3229'0560'262'13'494'34'597'306'316'05-2'08
3328'2158'542'10'274'28'227'206'215'56-2'05
3427'3957'262'07'164'22'037'106'135'48-2'02
3527'0056'032'04'134'16'037'01
6'045'40-1'59
3626'2254'442'01'194'10'196'525'565'335'071'55
3725'4653'291'58'344'04'506'435'485'255'001'53
3825'1252'171'55'553'59'356'355'415'194'541'50
3924'3951'091'53'243'54'346'275'335'124'481'48
4024'0850'031'50'593'49'456'195'275'064'421'46
4123'3849'011'48'403'45'096'125'205'004'361'44
4223'0948'011'46'273'40'436'055'144'544'311'42
4322'41
47'041'44'203'36'285'585'084'494'261'40
4422'1546'091'42'173'32'235'525'024'434'2198
4521'5045'161'40'203'28'265'464'564'384'1696
4621'2544'251'38'273'24'395'404'514'334'1294
4721'0243'361'36'383'21'005'344'464'294'0792
4820'3942'501'34'533'17'295'284'414'244'0390
4920'1842'041'33'123'14'065'234'364'203'5989
5019'5741'211'31'353'10'495'184'314'153'5587
5119'3640'391'30'023'07'395'134'27
4'113'5186
5219'1739'591'28'313'04'365'084'224'073'4885
5318'5839'201'27'043'01'395'044'184'043'4484
5418'4038'421'25'402'58'474'594'144'003'4182
5518'2238'061'24'182'56'014'554'103'563'3781
5618'0537'311'23'002'53'204'504'063'533'3480
5717'4936'571'21'432'50'454'464'033'503'3179
5817'3336'241'20'302'48'144'423'593'453'2877
5917'1735'521'19'182'25'474'383'553'433'2576
6017'0335'221'18'092'43'254'353'523'403'2375
6116'4834'521'17'022'41'084'313'493'373'2074
6216'3434'231'15'572'38'544'273'463'343'1773
6316'2033'551'14'542'36'444'243'433'323'1572
6416'0733'281'13'532'34'384'213'403'293'1271
6515'5433'011'12'532'32'354'183'373'263'1070
6615'4232'351'11'562'30'364'143'343'243'0869
6715'2932'111'11'002'28'404'113'313'213'0568
6815'1831'461'10'052'26'474'083'283'193'0367
6915'0631'231'09'122'24'574'053'263'163'0166
7014'5531'001'08'212'23'104'023'233'142'5965

あなたは表にあるような、5kmや10km・ハーフなどのレースを経験した事があるでしょうか。

「ある!」

という方は、その時のレース結果を確認して表に当てはめてください。

例えば10kmのレースを1度走り1時間3分40秒だった、という事であればVDOTはおおよそ30。

10kmは1時間3分40秒だったけど、違う日に走った5kmのレースでは29分だった、という場合。

5km29分はVDOT32に相当します。

距離の違うレースのタイムを複数持っている場合は、最も高いVDOTを採用します。

したがって、ここでは5km29分のタイムを参考にVDOTは32にします。

「レースを走った事がない!」

という方は一度レースに出てみても良いですし、フラットなコースで気象条件が良い時に5kmや10kmのタイムトライアルをやってみても良いでしょう。

タイムトライアルだとレースと違って若干追い込みきれない場合もありますが、そのタイムから簡易的に自分のVDOTを確認してみてください。

VDOTでトレーニング強度を決定する

自分のVDOTが分かったら、表に記載してあるVDOTの欄を確認してください。

表の項目、E・M・T・I・Rは、それぞれ

E:Eペース(イージーペース)

M:Mペース(マラソンペース)

T:Tペース(閾値ペース)

I:Iペース(インターバルペース)

R:Rペース(レペティションペース)

という意味であり、それぞれに違う効果が期待出来る練習方法です。

詳しくはこちらの記事をご覧になって頂きたいですが、ここでは閾値走について掘り下げていきます。

フルマラソンを速く走るにはどうしたら良いか。 初心者の方にとっては「日々のジョギング」という練習以外、定期的にやっている特別な...

例えばVDOTが30であれば、T(閾値ペース)の部分に記載されているのは6’24/km。

このペースがVDOT30のランナーにとって最適なトレーニング強度(閾値走のペース)になります。



閾値走のやり方【基本編】

自分のVDOTが分かり、最適な閾値走のペースが分かったのであれば、日々の練習の中で閾値走を実施する方法は割と簡単です。

基本的な閾値走の練習例としては、

アップジョグ3km → 閾値走20分間 → ダウンジョグ3km

のような感じになります。

アップジョグの際にはWS(ウインドスプリント)を数本行うと、閾値走にスムーズに入っていけます。

ダウンジョグでも軽くウインドスプリントをすると、気持ち良く終われます。

※ウインドスプリントとは、50m~100mの距離を、全力の80%前後程度で気持ち良くスピードを出して走る練習。ケガ防止のため、急にスピードアップせずに、徐々にスピードを出して少しずつスピードダウン。セット間はしっかり呼吸を整えて2本~5本ほどやると良いです。着地衝撃が大きくなるので、出来れば土や芝の上など柔らかい場所が好ましいです。

閾値走をやる時に、注意するべき点は3つ。

1.基本は20分間、閾値走のペースで走ること

2.気象条件が良く、出来るだけフラットな場所で行うこと

3.ペースを上げたり下げたりしないこと

1.基本は20分間、閾値ペースで走ること

閾値走の疾走時間は、基本的に20分間です。

では何故、閾値走は20分間なのか。

ダニエルズのランニング・フォーミュラに明確に20分であるべき理由を記載している部分がないので推測の域は出ないのですが、各ランナーにとって閾値ペースはレースにおいて50~60分間持続出来る速さ。

少し難しい表現になってしまうのですが、閾値とは血中乳酸濃度が急上昇する変換点です。

閾値ペースを超えると「血中乳酸濃度」が急上昇してしまいます。

すると、あっという間に息が切れてペースが維持出来なくなりますが、乳酸を処理出来るギリギリの所である程度長い時間を走る事で、血中の乳酸を除去し十分処理できる濃度に抑える能力を高められる、という訳です。

しかし、血中の乳酸除去能力を高めたいがために「閾値ペースである程度長い時間を走る」と言っても、レースと同様に限界まで(50分~60分)閾値ペースで走ると、疲労とダメージが大きすぎて練習の継続性に難があります。

従って閾値で走るのは20分程度にしておくのが、日々の練習の中でコンスタントに血中の乳酸処理能力を向上させていく練習を実施するのに適切である、というように思います。

実施すると分かりますが、20分でも充分にキツめの練習であり、ダニエルズさんが書籍の中で書かれている通り「終わるのが待ち遠しい」練習です^^;

2.気象条件が良く、出来るだけフラットな場所で行うこと

テンポ走は必ず気象条件がよいときに行い、比較的フラットで走路面のコンディションのよい場所を選ぶこと。この練習の目的は、一定の運動強度をある程度長い時間持続することである。アップダウンが激しいコースや総路面の悪いコース、強風は、一定ペースを守る能力に悪影響を及ぼし、練習の目的を果たせなくなってしまう。

出典:ダニエルズのランニング・フォーミュラ

次項で記載しますが、閾値走は一定のペースで上げない・下げないが基本中の基本です。

しかし悪天候や強風・悪路・アップダウンのあるような場所では、身体にかける負荷が変わってしまいます。

とはいえ、私もそうですが、実際の練習現場では「完全なフラット」という練習場所に恵まれたランナーは少ないかもしれません。

信号がある、人通りが多い、怪我が不安だから土の上でやりたい、アップダウンがある…

人それぞれぞれ様々な事情があるので、

自宅周辺で最も条件に近い、やりやすい場所で実施すれば充分です。

ちなみに私が閾値走を実施する場所は、アップダウンはありますが、信号が無く人通りが少なめの走りやすい場所(自宅近くの公園)です。

アップダウンがあるため、VDOTから導かれる設定ペースより数秒/km遅めで実施していますが、たまにフラットな屋内練習場で実施する場合はVDOT通りの設定ペースで走れますので、さほど問題は無いと考えています。

3.ペースを上げたり下げたりしないこと

テンポ走の一番の課題は、適正ペースを維持し、タイムトライアルにならないように抑えて走ることであろう。適正ペースは、それよりも速い(あるいは遅い)ペースと比べて練習効果が高い、ということを忘れてはならない。

出典:ダニエルズのランニング・フォーミュラ

閾値走としてスタートしたものの、気分が盛り上がってきて頑張ってしまい、タイムトライアルのようなキツさ、タイムでフィニッシュしてしまった…そんな事が実際の練習ではあります。

「でも、閾値走より速いペースで走ったのだから、練習効果は高かっただろう」

などと考えたら…

ダニエルズ先生に喝を喰らいます(笑)

「(閾値走の)適正ペースは、それよりも速いペースと比べて練習効果が高い」

って言うんですから^^;

たまにダニエルズ先生は、実際の感覚と比較して

「ホントかな~?」

という記述をされている時があります。でも本当です。

例えばロング走を実施する時、EペースとMペースどちらでやる方が練習効果が高いか、という話。

Mランニングの主な効果は、メンタル的なもの、つまり設定したペースで走る自信を高めるものと言ってもいい。生理学的な効果はEランニングとまったく変わらない。

出典:ダニエルズのランニング・フォーミュラ

「えー!頑張って速いMペースで走るのはメンタル的なもの、自信構築ってだけなのかいっ!Eペースと効果が同じとは(;´Д`)」

みたいな感じ(笑)

でも、ちゃんと適切な閾値走とインターバル・ミドルのMペース走、Eペースでのロング走を継続的にやっておけば、レース前にしっかり目標のMペース(レースペース)で30km走が出来て、本番でもPB出せるんだから納得です^^;

そもそもMペースでのロング走は負荷が高すぎて練習の継続性に難があり、ダニエルズさんも積極的に推奨しておらず、日々の練習には不向きですしね。

ただし、レース3週間前までにMペースで数回ロング走をやっておく事で得られる”自信”というのは、レースへの影響が思いのほか大きいので、強くオススメしたいところです。

30km走。 フルマラソンをしっかり走り切るための練習としては「定番」とも言えます。 定番であり、かつ王道。 ...



閾値走のやり方【初心者編】

「マラソン練習といえばジョギングだけ、これからポイント練習を始めてみたい!」

という方が取り組む場合の初心者編です。

そういう方にとって、いきなり20分間の閾値走は非常に辛い練習かもしれません。

実は私も一番最初に閾値走をやった時は、20分間も走れませんでした。途中でリタイア^^;

私はその時、初心者向けの「クルーズインターバル」があるという事を把握していなかったため、キツくても20分間の閾値走に慣れるように頑張り続けましたが、皆さまは怪我や疲労のリスクがあるので無理する必要はありません。

クルーズインターバルとは

クルーズインターバルとは、閾値ペースで行う「インターバルトレーニング」の事です。

インターバルトレーニングとは短い休憩時間をはさみ、速いペースで走る区間を数本繰り返す練習です。

通常20分間を通して走る閾値走と異なり、閾値ペースで走る区間を小分けにして休憩を挟みつつ実施します。

練習例

アップジョグ2km→クルーズインターバル10分+2分ジョグ+クルーズインターバル10分→ダウンジョグ2km

上記の例ではクルーズインターバルでの疾走時間を10分としましたが、3~15分の間で設定すれば良いとダニエルズさんは言っています。

その際、休息時間は5分の疾走時間につき1分を取るのが平均的との事。

例えば

クルーズインターバル5分+休憩1分+クルーズインターバル5分…

のような流れで4本実施するのも良いでしょう。

クルーズインターバルに慣れてきたら、より練習効果の高い、20分間を通して走る通常の閾値走に移行すると良いと思います。

閾値走の効果は何だろう

血中の乳酸を除去し十分処理できる濃度に抑える能力を高めるために行う。持久力を向上させるために行うと考えればよい。つまり、ある程度の時間、少しだけ速めのペースで持ちこたえることを身体に覚えさせる、あるいは一定ペースを維持できる時間をのばす、ということだ。

出典:ダニエルズのランニング・フォーミュラ

VDOTを理解した上で、適切な強度で閾値走を継続的に実施する事で得られる効果は非常に大きく、日本のみならず世界中で多くのランナーが練習に取り入れて記録を伸ばしている事で証明されていると言って良いでしょう。

閾値ペース強度でのランニングで得られる生理学的効果とは、持久力、すなわち運動強度と運動時間の増加に耐えられる力が向上することである。

出典:ダニエルズのランニング・フォーミュラ

閾値走の効果は、ある程度の速いペースで長い時間走り続ける事ができる「持久力」を養成する事になります。

しかしここで誤ってはいけないのが、実際にフルマラソンの記録を大きく向上させるためには、閾値走だけでは少し足りないという事です。

マラソンは総合力の勝負。

自分の走力を効率的に上げていくには、バランスの良い練習が必要です。

それには様々なペースでの練習をする必要があり、レペティション・閾値走・インターバル・マラソンペース走、そしてイージーペース走を、それぞれ適度な頻度で練習計画に入れて実施し続ける事が肝要です。

自分の走力を車に例えて考えた詳しい記述は、こちらの記事で。




まとめ

閾値走の効果やトレーニング方法について、ご紹介しました。

閾値走はレースやタイムトライアル、インターバルといった練習よりペースが遅い練習であるとはいえ、強度の高いポイント練習である事に変わりはありません。

私はマラソン練習の初期の頃、閾値走は全て公園の土の上で実施していました。

アスファルトの上でジョギングするだけで、膝や足首・股関節などが痛くなっていたためです。

ジョギングでランナーとしての土台が出来上がり、アスファルトの上で週1くらいはポイント練習をしても問題が無くなったと自覚してからは、普通にアスファルトの上で閾値走を実施しています。

マラソン練習で一番多くの時間と距離を費やすであろう「ジョグ(ジョギング)」。 「疲労抜きジョグ」「回復ジョグ」「強化(...

ポイント練習で使用するシューズも、慣れないうちは薄すぎるシューズを履くと故障しやすいです。

故障は、折角それまでに積み上げた練習が崩れてしまいますし、走れないストレスは本当に大きく辛い。

少しくらい走りにくくても、タイムが悪くても、怪我するよりは遥かにマシです。

ある程度クッションのあるシューズを選択するのが良いと思います。

私は3時間15分を切るまで、ポイント練習もジョギングもレースもミズノのウェーブライダーという“ランニング入門モデル”の、比較的クッション性の高いシューズを使っていました。

慣れていって上級者になれば「着地筋を鍛える」という意味からも、少しソールの薄いシューズを選択する必要が出てくるでしょう。

とはいえ、私は今でもポイント練習で使うシューズは、メーカーのシューズチャートでサブ4向けと記載されている「adizero Japan」であり、そこまで薄いソールではありません。

それでも怪我のリスクを抑えつつ着地筋が鍛えられている感覚はありますので、バランスが大事だと思います。

最後に…

マラソン練習は「これだ」と思って取り組んだ練習はすぐにやめず、とりあえず半年~1年は継続してみて自分にとって効果的かどうかを知る必要があります。

是非みなさまも、試しに閾値走を半年~1年ほど週1~2週間に1回ほど続けて実施してみて、その効果を実感してみてください。

閾値走の上級者バージョンなどをご紹介した記事はこちら。

 T(閾値)強度は、言わば快適なきつさである。確かに、比較的速く走ってはいるが、そこそこの時間(練習なら20~30分間)維持できる、というペ...
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