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【解説動画】本当に速くなるの?ジョグとの違いは?LSD(ロング・スローディスタンス)上級者はなぜLSDをあまりやらないの?
記事の内容は以下の動画でも解説しています!
この記事はLSDトレーニングの【発展編】です。
LSDトレーニングについての基礎的な知識を解説した【基礎編】は、こちらの記事になります。
まだご覧になっていない方は、良かったら【基礎編】からご覧ください。
基礎的な知識を踏まえた上で、発展編の解説をしていきます♪
LSDで果たして速くなれるのか!?
佐々木監督が書籍の題名(ゆっくり走れば速くなる)に採用しているように、LSDは様々な有酸素運動の効果を少しずつ得ていく事によって、特に初心者にとっては継続実施で確実に速くなります。
まだランナーとしての土台がしっかりしていない方にとって、出来るだけ無理なく、安全で楽しく練習を継続していく事は、マラソンが速くなるための重要なポイントです。
なぜならマラソンが速くなるための練習に、即効性のあるものはないから。
つまり速くなるためには数ヶ月~数年かけて、少しずつ走るための様々な能力を向上していく必要があるのです。
数回の練習で短期間に速くなる、魔法の練習は存在しません。
そのためには、怪我やオーバートレーニングによる疲労のリスクを出来る限り低く抑える事が絶対的に必要。(練習中断せざるを得ない状況になってしまう事が最も走力を下げ、ランニングから離れてしまう気持ちになりやすい)
「速くなるなら、すぐに閾値走やインターバルをやろう!」
と考え、土台が築けていないのにポイント練習をやっていくと非常に怪我をしやすいですし、キツくてランニング自体を嫌いになってしまう可能性が高くなります。
トップレベルのランナーや競技者と違い、私たち一般市民ランナーが一層気を付けるべきことはダニエルズさんが書籍で教えてくれています。
強度として望ましいのは、練習目的を達成できる最も負荷の低い強度である。
LSDトレーニングは、ランニング(有酸素運動)で効果を得られる”最も負荷の低い強度”であると言っても良いと思います。
この点については佐々木監督も、ダニエルズさんと同じような考え方をされていたようです。
トレーニングするからにはトレーニング効率ということを考えなくてはいけません。より少ない練習により、より大きな効果を得る。平たくいえば、いかにラクをして強くなるかということです。
そういった意味では怪我やオーバートレーニングのリスクを可能な限り抑えつつ、有酸素運動を実施する事によって得られる様々な効果、例えば
・使われていない毛細血管の発達
・関節や筋の強化
・心肺機能の向上
・グリコーゲンの貯蔵量を増やす
・遅筋のミトコンドリアが増加
・長い時間動き続けるメンタルの構築
このような長距離ランナーに必要な各種能力が、上昇幅は低めですが、確実に上がっていくのです。
LSDのように長い時間身体に弱い刺激を与えることで、様々な能力がまんべんなく鍛えられる、というわけです。
LSDトレーニングの限界
ただ、LSDトレーニングには限界もあります。
これは佐々木監督も書籍の中で認めてしまっています^^;
しかし、LSDでは開発できない能力もあります。それはスピードと筋力です。やはり、LSDのなかのゆっくりした動きのなかでは、スピード・トレーニングと同じような効果は期待できません。心拍出量の増大、運動神経回路の改善、筋繊維の強化という面を強化することはほとんどできません。
またリディアードさんも、その書籍の中でLSDトレーニングについて
たしかに、LSDを行っていれば、何時間も走りつづける力はつくだろう。しかし、LSDのような強度の低いランニングは、ジョガーやランニング愛好者にはよいが、競技者の場合、それだけでは十分な負荷を循環器系にかけることができないのである。
LSDで長い距離を走れるようになることは認めています。
その上で、私たち一般市民ランナーはランニング愛好者なので別に良いのかもしれませんが(笑)、走力を大きく向上させるような負荷はかけられないと記載しています。
LSDの実施を含めた、本来の練習サイクル
ひとつながりの練習のなかに、オーバートレーニングすることが必要であり、そのひとつながりの練習のなかで疲労の回復を図って次の練習へ進まなければならないという意味
そもそもLSDトレーニングは単品で語られる事も多いのですが、本来は大きな負荷をかけるポイント練習を含めて、3日のサイクルで実施する中の1つの練習に過ぎないのです。
そのサイクルは
1日目:オーバートレーニング(ポイント練習)
2日目:休養(LSDなどのアクティブレスト)
3日目:コンディショニングトレーニング
という流れです。
3日目のコンディショニングトレーニングとは、LSDの遅い動きから翌日のポイント練習の準備として速い動きをするトレーニング。
書籍では代表的な練習として”ビルドアップ走”が紹介されています。
LSDだけでは、特にスピード面で成長の限界がある
速くなるには、その他の練習もやっていく必要あり
これを忘れてはいけません。
なぜ上級者は、なぜLSDをあまりやらないのか
一流選手や、一般市民ランナーでも速いランナーは、ジョグは日常的な練習として非常に重視しています。
しかしLSDを積極的に実施しているランナーは、あまり見られません
かつては浅井えり子さんのように、オリンピックに出場するようなランナーであっても積極的にLSDを取り入れている方がいました。
現在は、ほぼ皆無^^;
なぜでしょう。
前節では
LSDだけでは限界がある、スピード練習も平行して実施すべし
という事を解説しましたが、
「じゃあLSDとスピード練習をやろう!」
となってません。
速いランナーが、ポイント練習以外の日に実施するのはLSDではなく
ジョグやEペース走
というのが大多数。
これはLSDでしか得られない効果があるのかどうか、そしてジョグやEペースとの違いについて理解すると分かります。
LSDでしか得られない”特殊効果”があるのか?
ベテランランナーさんなどがLSDを語る時
「他のランでは感じないダルさ、これがLSD特有のもので、強くなってる証でもあるぞ」
そんなお話を聞く事があります。
LSDを実際にやった事がある人なら、この感覚を味わったことがあるでしょう。
他の”走る”練習では感じないダルさ
果たしてこの”ダルさ”は、LSDでしか得られない効果の証なのでしょうか。
なにかマラソンに超重要な、特別な筋肉や能力が鍛えられているのでしょうか。
私の個人的な考えではありますが、基本的には
LSDだけにある効果はない
と思ってます^^;
LSDの大ファン、また、LSDには特別な効果があると考えていらっしゃる方々には申し訳ありませんm(_ _)m
個人的な、ただの場末なブログで勝手な意見を述べているだけですので、何卒ご容赦ください^^;
もしLSDでしか得られない、長距離ランナーに必須な特殊効果があるのであれば、ダニエルズさん・リディアードさん・カノーバさんはじめ、世界中の有能な指導者が積極的に取り入れてきたでしょうし、現在でも一流コーチは競技者向けに取り入れている事でしょう。
しかし、実際はリディアードさんがLSDに否定的なのは前述した通りです。
ダニエルズさんもLSDは取り入れておらず、カノーバさんも特異性の原理を大事にしているコーチでLSDは構想外。
ダルくなるのはウォークに近い接地時間の長さ、ここに起因するものだと考えています。
ランナーでも徒歩で2時間~3時間歩けば超疲れます。
走ったほうがマシというくらい(笑)
歩くという事は、ある意味走るより大きなダメージを受けます。
岩本能史さんのブログで、ウルトラマラソンを目前に控えたランナーに向けた言葉の中で
で、最後にちょっと技術的なこと。前日受付会場などで動き回らないこと。立つ&歩くは走るよりはるかに脚にダメージを残します。翌日に競技種目(出番)のあるオリンピック選手は一生の晴れ舞台にもかかわらず、開会式に出ませんよね?絶対に出ませんよね?走りさえすれど絶対に開会式には出ませんよね?どうしてだかわかります?立つ&歩くはもの凄いダメージだからです。アナタがもし、北島康介より浅田真央よりカール・ルイスよりQちゃんよりレジェンド葛西よりも強靭だったら許します。いくらでも歩き回って疲れ果ててください。
このように述べている通り、鍛えてきたアスリートでも”立つ””歩く”というのは、特殊なダメージを身体に与えます。
走るのと異なるダルさやダメージを感じるのであれば、それは単にウォーク(徒歩)に近い接地時間がゆえの疲労感覚。
基礎的な体力構築やメンタル作りには有効かもしれないですが、その感覚によってLSDを特別な練習であるという認識とするのは、若干違うような気がします^^;
LSDとジョグやEペースとの違いは何か?
結論から言えば
LSD(有酸素運動)の上位互換がジョグやEペース
と言っても過言ではありません。
ペースがある程度速い有酸素運動の方が、活動筋や心肺能力などの走るための各能力を効率良く、短時間で上げていくことが出来ます。
なのでリディアードさんは最高安定状態(閾値)の70%以上のランニング、ダニエルズさんはEペース以上のランニングを推奨しています。
ペースが速くなれば故障のリスクは上がるのですが、速くなっていきたいと思って練習に真面目に取り組んでいるランナーであれば大丈夫。
ジョグ~Eペースのスピードならリスクよりも、短時間で実施出来て、かつ得られるリターンの方が大きいです。
ただ初心者の場合はジョグやEペースだと長い時間走れない場合があります。
マラソン練習は刺激時間をどれだけ取るかが重要なポイント。
有酸素運動の刺激時間を出来るだけ長く得るために、初心者にとってLSDペースは安全・楽しく・ラクに・おしゃべりをしながらでも取り組める、貴重な練習メニュー。
中~上級者でもセット練で疲労感が大きい2日目、走り出すハードルの低いLSDペースで走り出せたり、場合によってはずっとLSDペースで走り通しても、ランオフより断然力になります。
という事で、ランナーとしての土台がすでにある上級者がLSDをあまり実施しないのは
・LSDだけに存在する特殊な効果はない
・費用対効果を考えるなら、LSDよりジョグやEペースが優れている
という事になります(^^)
まとめ
LSDについて【基礎編】【発展編】と解説してきました。
どの練習にもメリットやデメリットは存在します。
LSDのメリットとデメリットをまとめると
LSDのメリット
・長距離を走るための各能力を少しずつ向上させることが出来る
・特に初心者がランナーとしての土台を築くのに良い
・怪我のリスクが比較的小さい
・練習へのハードルが低く、楽しく取り組みやすい
・様々な事へ思いを巡らせることが出来る(フォーム、呼吸、着地、腕振り、ピッチなど)
・リフレッシュ効果や疲労抜きの効果(短時間・短距離の場合)
LSDのデメリット
・費用対効果がジョグやEペースよりも低め
・つまり時間がかかる割に各種能力のアップの幅が小さい
・ランニングフォームが小さくなってしまう(実施後のWSで戻す)
ある程度基礎が出来てるランナーであれば、ジョグやEペースの方が効率的という事です。
ただし私たちは練習効果・効率をとことん追求する競技者ではなく、あくまでも趣味で楽しむ市民ランナーです。
自分が好きな練習、ある程度効果があって楽しい練習、取り組みやすい練習、そういうトレーニングを柱にして、たまに他の刺激も入れつつ走力アップを狙う。
そうやって長くランニングライフを楽しんでいければ良いんじゃないかな、と思います♪
結果的にそれが、故障をせず右肩上がりで大きく走力を上げていくポイントにもなりますしね。