「水切れ」ほどヤバい状況はない。
空腹はしばらく耐える事が出来ても、水切れは空腹より遥かに恐ろしい。
「渇き」の地獄は別格。
トレイルのレースや練習で
「ヤバい…水が少なくなってきた」
という経験があるランナーならその恐怖はご存知でしょうし、実際に水切れで大変な目に合った方もおられるでしょう。
すぐにリタイア出来る場所ならまだしも、トレイルのレースは自力で下山しなければいけない場合も多いので、万が一にも水切れにならないように細心の注意を払う必要があります。
とはいえ、水は重い。
練習であれば多少の重さをザックに積み増しても安心・安全を最優先にしたい所ですが、レースであれば可能な限り軽い方が有利なので
“過不足の無い給水計画”
が大事になってくるわけです。
トレイルレースにおける給水の量と種類について考えていきます。
目次
トレイルにおける給水の量について
結論から明記すると、トレイルレースにおける給水量には目安となる公式(登山中の脱水量)があります。
登山中の脱水量
=体重(kg)×行動時間(h)×5(係数)
つまり60kgのランナーが1時間動くと
60(kg)×1(h)×5(係数)=300
300mlの脱水という計算になります。
ただし、季節によってこの量は変化します。
真夏で30℃以上あるような場合であれば、1時間で500lmないしはそれ以上必要な時もありますし、比較的気温が低い場合であれば、1時間行動しても1口・2口程度で済んでしまう時もありますので、あくまでも目安です。
上記に基づいて、持参する給水量の考え方を例示します。
【例1】通常練習時
体重60kgの筆者が月に何度か実施している、3時間ちょっとの山練習の場合
=60(kg)×3(h)×5(係数)
=900ml
脱水量が900mlなので、いつも500mlのソフトフラスク2本・計1000mlをザックの胸ポケットに収納して山練習をしています。
特別暑い日でなければ、1000mlで足りないと感じた事はありません。
非常に暑い日に実施した練習では、3時間でも1500ml~2000ml必要だと感じた事もあります。
【例2】大雪山トレイルジャーニー70km
比較的エイドステーションが多いレースの場合の例です。
例えば、先日筆者が出場した”大雪山トレイルジャーニー70km”のように、A1~A4までエイドが4ヶ所あるようなレースの場合。
最も時間を要する&多くの水分が必要となるエイド間に対応出来る、ソフトフラスクやハイドレを用意すればOK
です。
A1まで
20kmの林道。
キロ6平均で進んだとして、行動時間は2時間ほど。
2時間であれば600mlの脱水という計算になりますので、必要な水分は600ml。
A2まで
次のA2までも20kmの林道。
同じくキロ6平均で2時間、600mlの水分が必要。
A3まで
A3までは13km。
この区間は傾斜がキツくなってきて歩く場面も出てくるので、同じく2時間の行動時間を計画。600mlの水分が必要。
A4まで
A4までは10km。
ただし山岳パートであるため、行動時間は余裕を持って3時間とする計画。
900mlの水分が必要となる計算。
ゴールまで
そしてゴールまではおよそ10km。
下りとはいえ山岳パート。地形的に気持ち良く走って下れるとは限らないし、レースは終盤。撃沈していたら全部歩きだ。
2時間の行動時間と予想し、600mlの水分が必要。
エイド間で最も水分が必要となる区間(今回は900ml)に合わせて、最低限1000mlの水分を持って走れる準備があればOK。
高温に対する備えやコースの険しさに対しての準備、個人的な水分必要量の違いによってプラス500ml~1000mlのソフトフラスクやハイドレーションシステムの持参を検討する事は、もちろん推奨したいところです。
迷ったり心配するなら持て!水が足りなくなるより、多くて余る方がよっぽど良い!
です。重いのを気にしなければ^^;
なお、同程度のトレイルコースを練習で走る場合や、レースでエイドが1つも無い&水場も期待出来ないのであれば、600ml+600ml+600ml+900ml+600ml=3300mlの水分を持参する事が最低限必要になります。
【例3】ハセツネCUP(日本山岳耐久レース)71.5km
比較的エイドステーションが少ないレースとしての例です。
エイドが少なく、主に”自己完結型”のトレイルレースとして代表的なのがハセツネ。
レース前になると、出場ランナー同士で
「水分どれくらい持っていく?」
という話題がお決まりなほど、持参する水分量についての関心が高まるレース。
というのも、最初のエイドステーションとなる
42km地点の「月夜見第2駐車場」まで補給出来るエイドステーションや水場は無し※
だからです。
スタートから42km先まで水分の補給が出来ない事で、持参しなければいけない水・スポーツドリンクなどが多くなり、重い。
可能な限り少なく軽くしたいけど、水切れは恐ろしい。
トップ選手たちであれば月夜見まで5時間そこそこで到着出来ますが(必要な水分は1.5L~2Lで充分か)、私達一般市民ランナーであれば月夜見まで8時間~15時間(制限時間)かかります。
10時間であれば3000ml、13時間であれば4000mlが最低でも必要な計算になります。
それだけの水の量…3kgとか4kgって
かなり重い!^^;
という事で少しでも水の量を減らして、レース中は「一口ルール(ゴクゴク飲まない)」や「ひと舐めルール」など、ランナーそれぞれ独自のルールを作って”渇き”に耐えながら月夜見を目指すんですね。
月夜見まで
10時間で月夜見まで到達する事を目標にして3000ml、快晴で暑い場合や個人的な不安解消などの理由で+500mlを持参するとして
ソフトフラスク500ml×2=10000ml
ハイドレーションシステム1000ml×1
ハイドレーションシステム1500ml×1
合計3500ml
月夜見では1500mlの水分(ポカリスエットか水)が補給可能ですので、しっかり補給。
大岳山荘まで
月夜見をクリアすれば、その後は水の心配がさほどなくなります。
夜間走で涼しくなるという事もあって”危険度”は低くなりますが、月夜見に到着して安心して継続的にゴクゴク飲んでいると、1500mlはあっという間になくなりますので一応注意です。
月夜見から次の水場である大岳山荘(約200m先・自然水)まではおよそ11.6km、順調に進めれば行動時間は3時間~4時間ほど。
1500mlを計画的に補給していけば、大丈夫。
到着した大岳山荘の水場が大行列で混雑しているようであれば、少し先に綾広の滝・上部(自然水)にも水場があります。
喉の渇きに余裕があれば大岳山荘の水場はスルーして、綾広の滝・上部の水場を利用する方が良いでしょう。
綾広の滝を少し過ぎれば御岳神社(自然水)の水場もあるので、水場はしっかり頭に入れて待ち時間を少なく給水した方が得策です。
ゴールまで
ハセツネ最後の水場は御岳神社(自然水)。
ここまでにしっかり給水を行い、御岳神社~ゴールまでの13.5km・2時間をしっかり最後まで動けるように整えておきましょう。
給水の種類
一般的には水や経口補水液、そしてスポーツドリンク(ポカリ・アクエリアス・メダリスト・モルテン等)を持参するランナーが多いと思います。
給水に関しては、水ばかりだと電解質不足になって強い疲労・めまい・足つり・筋力の低下などが起こりますので、適宜スポーツドリンクなども身体に入れる事が必要になりあす。
長い時間動き続けるトレイルレースの場合、補給食としてジェルやパワーバーなどの甘いものを摂取する機会も多くなります。
補給食=甘い、給水=甘い、だと甘さが嫌になって、飲み物を飲みたくなくなる事があります。
練習の中で自分が飲み続けられる飲み物や、食べ続けられる補給食を把握しておきましょう。
私は主にスポーツドリンク(ポカリ)を、持参する給水量の半分~7割ほどにし、残りは水を持っていってます。
給水の注意点
フルマラソン位の距離であればともかく、100kmウルトラマラソンやロングトレイルの場合、水分補給を誤ると胃腸のトラブルに見舞われてしまいます。
いったん胃腸のトラブルが発生すると、筋疲労よりも回復までにずっと長い時間を要することもあります。
胃腸トラブルを発生させないための注意点です。
一気飲みや、毎回多すぎる給水をしない
水分補給をする際に一気に多くの水分を飲んでしまうと、胃で吸収するのに時間がかかります。
そうすると、ロードでもトレイルでも胃の中で水分が揺れて負担になります。
胃液が薄まり強化不良になって、吐き気が襲ってきます。
そうなると脱水症状になりやすいですし、吐き気で補給食も受け付けなくなり”ハンガーノック”を起こす可能性があります。
マラソンでもそうですが
少しずつ、こまめに給水し続ける
という事が大事です。
一度に給水しやすい量は50ml程度。
これは個人差がありますが、一口にいっぱい含める量。
一口給水をこまめに、です。
自然水に注意
冷たくて美味しい、いつも飲んでいる水道水とは一味違う感じを受ける自然水。
全国各地に”名水”として有名な湧き水の豊富な場所があり、多くの方が自然の恵みを楽しんでいます。
しかし、自然水には体に合わない(下痢や嘔吐を引き起こす)水質があったり、動物の糞尿から染み出した寄生虫を身体の中に入れてしまう可能性があります。
最近は本州にも広がる”エキノコックス”も気になるところ。
エキノコックスとはキツネやネズミなどに寄生する寄生虫で、その卵が人間の身体に入って感染すると”エキノコックス症”となり肝臓や肺・脳や骨などに病巣ができて、死に至る事もあります。
潜伏期間が長く、感染しても症状が出るまで少なくとも数年以上はかかると言われています。
不用意に山の清水を飲むのは避けたいところですが、山中で安心して水を確保したい場合は、欧米で普及している携帯浄水器の利用をおすすめします。
出典:amazon.co.jp
山での利用だけではなく、災害時や緊急時・キャンプなどのレジャーにも使えますので、1本持っておくと便利で安心です。
まとめ
トレイルにおける水分量や水分の種類については、気温やコース・個人に必要な水分量によって大きく変わってきます。
私の場合は、比較的同じ山で同じコースを同じ時間で何度も練習する事により、自分に必要な水分量や飲み続けられるもの、気温によって必要な水分量の変化を、より正確に把握出来るようになりました。
前述のように目安となる脱水量の公式はありますが、練習の中で自分に合った給水の量・質・タイミングなどを理解した上で山に入るのが本当に重要です。
トレイルランニングを始めたばかりで自分に合った給水計画を固められていない状態であれば、多少重くても公式から算出される目安となる脱水量+αの水分を持っていってくださいね。