フルマラソンを速く走るにはどうしたら良いか。
初心者の方にとっては「日々のジョギング」という練習以外、定期的にやっている特別な練習は無い、という方も多いと思います。
私もそうでした。早い段階で、ポイント練習(スピード練習)を誰かに教えてもらいたかった^^;
ジョギングのみの練習でフルマラソンに挑んでも、フルマラソンの距離に対応出来るような長い距離のジョギング(ロング走)を何度か実施していれば、完走は可能ですし、元々スピードがあるランナーは素晴らしいタイムでゴールするかもしれません。
そしてその後もジョギングだけ、月間走行距離を伸ばすだけで、ある程度の記録向上は臨めます。
しかし、ジョギング練習だけでの記録向上には限界があります。
問題は、記録が伸びなくなったときにどうするか。
そこで登場するのが「ポイント練習」です。
「ジョギングだけの練習」から「ポイント練習」を織り交ぜた練習にどうやってしていくか。
ポイント練習って何だろう、週に何回やったら良いんだろう、どれ位がんばったら効果的なのか、そんな「ポイント練習のコツ」について考えていきます。
目次
ポイント練習とは、練習メニューの中で軸となる練習、つまり速くなるための練習です。
これまでジョギングだけの練習をしてきたランナーは、まず「ポイント練習」がメインの大事な練習であり、今までのジョギングは「つなぎの練習」、つまりサブの練習であると考えてください。
強度の強いポイント練習を継続実施するためには、土台となる強い身体が必要です。
身体が出来ていないと、ポイント練習は怪我に直結します。
「つなぎ練習」という位置付けになるジョグですが、ランナーとしての土台を作る効果は絶大です。
日々の練習の中でジョグを継続的に実施、月に何度かは長い距離をゆっくり走るジョグをしたり、フルマラソンのレースを走る事によって徐々に土台は作られていきます。
「速くなるための練習」というだけあって、ジョギング練習とは走るスピードや距離が全く異なってきます。
「どれくらい速く走ったり、長い距離を走ればマラソンが速くなるのだろう」
と思いますよね。
フルマラソンが速くなるためには、車に例えて大きく分けて3つの要素があると考えます。
1.42.195kmという距離を走るための、身体の強さと持久力(骨組み)
2.速いスピードを長い時間維持出来るエンジン(排気量)
3.エネルギーを効率的に使える経済性(ボティ)
それぞれの要素を鍛えるためにポイント練習を実施する訳です。
骨組みは日々のジョグやミドル走~ロング走で、時間走など長距離に耐えられる心と身体を鍛えます。ランナーとしての土台、骨組みと言えるでしょう。
この土台・骨組みが弱いと、スピードを出して練習した時や長い距離を走った時に故障します。
エンジンの排気量が大きくないと、走る際のパワーや速いスピードを生むことが出来ません。
エンジンの性能を上げるには、閾値走やインターバルを中心とした練習が主であり、スピードとスピード持久力を鍛えます。
※閾値走やインターバルについては、もう少し下の方で説明しています。
ボディが空力抵抗を考えた作りになっていなかったり、タイヤに空気が入っていないと、骨組みとエンジンが良くても、進むのにエネルギーを無駄に使ってしまいます。
ウインドスプリントやレペティションで走りの経済性を高めます。
「よし!じゃあスピードを上げてポイント練習しよう!」
と思っても、速く走りすぎれば数百メートルでバテで動けなくなりますし、ランナーとしての土台を強化するために長い距離を走る場合も、フルマラソンの距離である42.195kmを日常の練習で走る必要はありません。
練習で走るべきペースは各ランナーによって異なるので、
「ポイント練習はこれ位のペースで」
というように、一律に決める事は出来ません。
その代わり、このブログで再三おすすめしているのが、各人の走力に合わせたポイント練習が可能になる「VDOT」です。
VDOTとは、一言で言えば「走力のものさし」です。
VDOTの表から自分の走力を確認すれば、ポイント練習でどれ位のペースで走れば、無理せず効果的に走力を上げていけるのかが分かります。
詳しくは「VDOTとは」の記事にて。
練習の軸となるポイント練習のメニューについては、本当に様々なものがあります。
ダニエルズのランニング・フォーミュラ
実際にフルマラソンのレースペースで走る練習です。
【詳しい解説は動画でも配信しています♪】
本番で予定しているペースと同じなので、レースのシュミレーションをするのに適したペース。
長い距離を走る事が出来れば、本番に向けて大きな自信になります。
練習例としては
アップジョグ3km+マラソンペース15km~20km+ダウンジョグ3km
のようになります。
しかし、通常の練習日にあまり長い距離を走ってしまうと負荷が高すぎるので、ダニエルズのランニングフォーミュラには、Mペース走は25kmまでにするように注意書きがあります。
【詳しい解説は動画でも配信しています♪】
「閾値とは血中乳酸濃度が急上昇する変換点であり…」
などと、難しい説明は全て省略(笑)
とにかく簡単にいきましょう。
1週間~2週間に1回、自宅を出て平坦な練習場所(可能であれば土や芝の上)で
アップジョグ3km+閾値走20分間+ダウンジョグ3km
を続けてみてください。
(初心者でキツい場合は、閾値走10分間+2分の休憩+閾値走10分間、というクルーズインターバルでもOK)
スピード持久力が付き、徐々に長い距離を速いペースで走れるようになります。
ダニエルズさんは閾値ランニングについて、以下のように記載しています。
血中の乳酸を除去し十分処理できる濃度に抑える能力を高めるために行う。持久力を向上させるために行うと考えればよい。つまり、ある程度の時間、少しだけ速めのペースで持ちこたえることを身体に覚えさせる、あるいは一定ペースを維持できる時間をのばす、ということだ。
私も実際に3年以上閾値走をメインの練習にして、ロング走なども交えながら継続してみましたが、サブ4未達からサブ3まで走力を向上させる事が出来ました。
さらに閾値走について深く解説した記事は以下にありますので、気になる方はご覧ください。
【詳しい解説は動画でも配信しています♪】
インターバルトレーニングは、閾値走のペースよりさらに速いペースでしばらくの間走り、ジョギングでの休息時間を挟んで再び速いペースで走る事を繰り返し実施する練習。
VO2max(最大酸素摂取量)を最大限に向上させる事がインターバルトレーニングの一番のメリットですが、ちょっと言葉が難しいですね^^;
簡単に言えば、走るためのエンジンの排気量アップを図るトレーニングです。
閾値走のペースより速いペースで走ることになりますが、疾走時間は短いですので、よりスピードアップに重点を置いた練習になります。
練習例としては
アップジョグ3km+Iペース走1000m×3~5本+ダウンジョグ3km
となり、Iペース1000mは回復ジョグをそれぞれ3分(180秒)を挟んで予定本数を実施します。
上級者になると回復ジョグを2分(120秒)にしたり、ジョグのペースを速めて負荷を高めますが、まずは3分(180秒)、それでもキツい場合は、Iペースで走る時間と同じ時間を回復ジョグに当てても効果は充分です。
インターバルについてさらに詳しく解説した記事はこちらに記載してありますので、インターバルトレーニング実施の参考にしてください。
【詳しい解説は動画でも配信しています♪】
主にランニングの経済性(ランニングエコノミー)を高める練習です。
インターバル走よりもさらに速いペースで400mをフォームを確認しながら疾走、そして1回1回の休息はしっかり取って、次の疾走区間もリフレッシュした状態で臨めるようにします。
非常に速いペースで走りますので速筋のミトコンドリアを増加させる効果もあり、スピードアップの効果も期待出来ます。
練習例としては
アップジョグ3km+レペティション400m×5本~15本+ダウンジョグ3km
となり、レペティション400mは回復ジョグをそれぞれ3分を挟んで予定本数を実施します。
その他にも、ポイント練習のメニューは本当に数多くありますし、距離やペースなどの組み合わせなども考えると、パターンは無限にあると言っても過言ではありません。
予定の距離毎に、徐々にペースを上げていく練習。
例えば総距離10kmのビルドアップ走を予定している場合、
2km(5’30/km)-2km(5’20/km)-2km(5’10/km)-2km(5’00/km)-2km(4’50/km)
などのように、2km毎にキロ10秒ずつ上げていくような走り方です。
予定の距離を全力で走る練習。
例えば私の練習での5000mベストタイムは17分55秒(3’35/km)なので、5000m走を3’35/kmで走り始めてPBを狙うような高強度の練習です。
練習効果は高いですが負荷も高い練習ですので、頻発して実施するのは注意が必要です。
なお閾値走を実施している際に、ついタイムトライアルのようなキツさ・スピードになってしまった時の練習効果の変化や影響については、こちらの動画で詳しく解説しています。
ヤッソ800とは800m×10本のインターバル。
800mを4分で10本こなせたらサブ4、3分半10本でサブ3.5、3分10本でサブ3というような分かりやすい設定。
休息のジョグは400m。目標が3時間10分なら3分10秒。レストが長い事もあってスピードタイプのランナーにはゆるい設定ですが、スタミナタイプのランナーには良い練習になります。
変化走とは、一定の距離や時間毎に速いペースと遅いペースを繰り返す練習。
同じ距離を一定のペースで走るより、負荷の高い練習になります。
ペース走とは、予定の距離を一定のペースで走る練習。
例えば15km~20kmをマラソンペースより速いペースで走る、30kmをマラソンペースより少し遅いペースで走る、などがあります。
【詳しい解説は動画でも配信しています♪】
フルマラソンの距離を走り切るために重要な練習。
日常のロング走(30km走)は、Eペース(アップダウンのあるコースや身体の状態によってはEペース+10~20秒/km)が基本。
その他にも、ペースはごくゆっくりなマラニックのようなペースから、M(マラソン)ペースまで様々なプランが考えられます。
本番まで数ヶ月の猶予がある場合は、脚作りとしてマラニックようなペースで長い距離を走る練習を実施するのも効果的ですし、距離では無く時間で考える「時間走(ペース関係無く3時間走る)」なども有効です。
本番に近い(レース3週間前の仕上げなどの)時期などではMペースで30km~35km走る練習をするのも、市民ランナーの間では一般的であり、レースに向けた自信の構築につながります。
ご紹介したようなポイント練習のメニューを毎日実施すると、あっという間に故障です^^;
通常は週に1回~2回の実施が適切です。
例えば
月曜 休養
火曜 10kmジョギング
水曜 20分閾値走+6kmジョギング
木曜 10kmジョギング
金曜 休養
土曜 ロングジョグやペース走 20km~30km
日曜 10kmジョグ
太字:ポイント練習
のような1週間の練習になります。
個人の走力や身体の強さ・目指す目標の高さにもよりますが、
疲労や怪我のリスクや練習の継続性を考えると、ポイント練習の頻度は週に2回までが良いです。
また、水曜日に速いペースの30km走・土曜日に再び速いペースの30km走や速いペースの20km走など、速め長めのポイント練習を中2日などで連続実施すると疲労と故障のリスクが増加しますので、どちらかは閾値走やインターバルなど、短い距離・短時間でサクッと終えられる練習が好ましいです。
「サブ3に挑戦する!」
「次のレースで生涯ベストを出す!」
「どうしても越えられない壁を越えたい!」
という場合は上記の「安全策」は全く当てはまりませんが、週3回以上のポイント練習をやるとしても数ヶ月限定。
年中強度の強い練習を頻繁に実施していると危険ですので、くれぐれも取扱注意です。
ランナーのフルマソンの記録向上を阻害する要因は、
疲労の蓄積・故障・モチベーションの低下
です。
つまり「オーバートレーニング」、練習のし過ぎによる弊害です。
オーバートレーニングは走りすぎ、月間走行距離の積み上げすぎによっても起こりますが、ポイント練習によっても発生します。
ポイント練習でスピードを出しすぎたり、ある程度の無理ならまだしも、無茶して速いペースで長い距離を走り過ぎたり、追い込みすぎる事によって過度の疲労やダメージを受けてしまう事によって問題が起こります。
1回のポイント練習で受ける疲労やダメージが大きすぎると、次のポイント練習が疲れて出来なかったり、無理して実施して怪我したり、下手をすると「やる気」が無くなってしまって(燃え尽きて)練習を継続出来なくなったりします。
ポイント練習を実施するコツは、頑張りすぎないことです。
「何をバカな!マラソンは我慢のスポーツ。キツい時に頑張ってナンボだ!」
「タイムトライアルのような、メチャクチャ辛い練習が走力アップに最高なんだ!」
「もう無理だ、と思ってから粘るのが良い練習になるんじゃないか!」
ハイレベルなランナーの方やベテランの方からは、そんな言葉が聞こえてきそうです^^;
ここは非常にセンシティブな部分なのですが、キツくなった途端に止まってしまうような、やめグセが付いてしまうような練習だと速く・強くなれない事は確かです。
かといって、追い込みすぎるのも速く・強くなれないのです。
いや、それどころか「ランナーとしての寿命」も短くしてしまう可能性がある、怖い部分でもあります。
ランニングの「おっかない部分」については「フルマラソン後の練習再開について」という記事をご覧になって頂きたいですが、以下のような内容が詳しく記載されています。
私は幸いにも、20年・30年、またはそれ以上の長きに渡ってランニングをやってきた、かつてサブスリー、サブエガ、2時間40分切りまでマラソンを追求したような大先輩方(現在60歳代、70歳代)の多いチームにも末席に加えさせて頂いています。
そういう先達の発する言葉は重いのです。
「全力を尽くしたレース後、すぐに練習を再開する」
「ポイント練習で頑張りすぎる」
「痛くても走る、走って治す」
「月間500kmとか600kmを超える距離を年中走る」
そんなランナーは、みんないなくなったって言うんです。
閾値走などは特に「頑張りすぎない」練習です。
ダニエルズさんは、ペースアップは厳禁だと言っています。
テンポ走の一番の課題は、適正ペースを維持し、タイムトライアルにならないように抑えて走ることであろう。適正ペースは、それよりも速い(あるいは遅い)ペースと比べて練習効果が高い、ということを忘れてはならない。
実際に走ってみると分かりますが、閾値走は楽ではないけど辛すぎない、終わるのが待ち遠しい練習ではあるけど、無理な感じはしないと思います。
フルマラソンのタイムを更新し続けていくのにもっとも必要な事は、疲労残りと怪我のリスクを可能な限り回避して、安定的・継続的に練習を実施し続けることです。
自己ベストの最大の敵は「故障」と知る
30キロ過ぎで一番速く走るマラソン 小出義雄
閾値走だけではなく、どのポイント練習にも当てはまりますが、無茶をする事なく安全にタイムを短縮していき、健康的に長く市民ランナーとして楽しめるようにやっていきましょう~。