坂道ダッシュ、登りを一生懸命駆け上がっていく練習って凄くゼーハーしますし、下半身の筋肉への刺激も大きいように感じて、
「効果は結構ありそうだけど…キツいからやりたくない」
そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか。
あるいは
「走る筋肉は、走ればつくだろ!概ねフラットなレースを走るんだから、わざわざ坂で消耗する必要はねぇ」
みたいな(笑)
…ごめんなさい。
過去の私です(笑)
とにかく平坦な、アップダウンの少ないフルマラソンを探す事に必死でしたからねw
フラットなレースを走る予定だから、スピードだけ養成すれば平地で走るには充分だろう、坂の練習はいらないだろう
と本気で思ってました^^;
今回は、フラットなレースに出る、アップダウンのないトラックを主戦場とするようなランナーであっても非常に効果的で有用な”坂道トレーニング”について解説します。
そう。あたかも
「フラットなレースしか出ないんだから、坂トレはいらんでしょ」
とガチで思っていた、過去の私に
「このバカヤロウ!今すぐ週1~2回、坂ダッシュ始めろ!!」
と厳しく指導するように(笑)
目次
ブログの内容は、以下の動画でも解説しています!
世界には多くの優秀なマラソンコーチがいらっしゃいますが、その中でも有名な3人。
・ジャック・ダニエルズ
・アーサー・リディアード
・レナート・カノーバ
3氏が坂トレーニング(ヒルトレーニング)をどのように語っているか、見てみましょう。
ヒルランニングはRトレーニングの一種である。距離の短い坂道を上るきついトレーニングであり、比較的長い休息時間で区切る。ヒルランニングにはレペティションと同様の効果があり、ランニングの経済性が増し、スピードを生むパワーも向上する。
上記の言葉の中で重要な点としては3点
1.ヒルランニングはレペティションと同様の効果がある
2.ランニングの経済性が増す
3.スピードを生むパワーも向上する
です。
スピードはパワーから生まれる
これは非常に大事な事ですので、覚えておく必要があります。
またこのようにも書籍に記載しています。
ヒルランニングの上りは臀部・脚部を強化するよいトレーニングになり、ランニングの経済性(ランニングエコノミー)を向上させることになる。トラック競技を主要種目とする選手であっても、ヒルトレーニングはシーズン序盤のトレーニングの重要な要素といえるだろう。
パワーが向上する要因として、上りを駆け上がる事で臀部(おしり)と脚部が強化される、つまり坂トレーニングが
“走る筋トレ”
と言われる所以がこの辺りにありますね。
全くのドフラットな場所を走る、トラックを主要種目とする選手にも効果があるとのこと。
ヒルランニングで筋力を付ける・ランニングエコノミーを向上させるという事が、完全にフラットのような場所で走る場合にも非常に有効であるという事になります。
上記の文言はいずれも現行のダニエルズのランニング・フォーミュラ3版に記載はなく、旧版での記載です。
旧版は現行の第3版ではカットされてしまった興味を引くコラムや、第3版には無い役に立つ文言も結構あると感じています。
ダニエルズマニアの方は、もう古本でしかゲット出来ませんが旧版もおすすめです♪
ヒルトレーニングは、スピードやパワーをつけるウエイトトレーニング、柔軟性をつける体操、フォーム改善を図るドリル、さらに無酸素能力を開発するランニングなどを一度に、時間を有効に使いながらできるトレーニングなのである。
ヒルトレーニングと言えばリディアードさん、と思い浮かぶ方もいらっしゃると思います。
リディアードさんはヒルトレーニングについて
1.スピードやパワーをつけるウェイトトレーニング(筋トレ)
2.柔軟性をつける体操
3.フォーム改善を図るドリル
4.無酸素能力を開発するランニング
これらの能力を一度に獲得出来る、効率的な練習だとしています。
効果を並べると、全て同じ幅で能力向上が期待出来るようにも感じてしまいますが、そうではありません。
リディアードさんのヒルランニングは、多少ドリル的な動きを入れた坂トレになってますので、それを含めると”柔軟性をつける体操”の意味も出てくるのかなと思います。
気になる方は書籍で確認してみてくださいね。
そして4の”無酸素能力を開発するランニング”。
無酸素能力を開発するランニングというのは”インターバル”のような練習になるのですが、上記文言ではその能力も開発出来ると記載があります。
しかし、上記文言のあとに、下記のような言葉の記載もあります。
このトレーニングを正しく行えば、大腿部の強化だけでなく、柔軟性やテクニックも身につけられ、さらに、次の段階で本格的に取り組んでいく無酸素トレーニングの下準備として、わずかではあるが無酸素能力の開発も図れるのだ。
無酸素能力の開発はわずか^^;
なのでリディアードさんが語る、ヒルトレーニングの基本的な効果は
1.スピードやパワーをつけるウェイトトレーニング(筋トレ)
2.フォーム改善を図るドリル
この2つ、という事になると思います。
カノーバさんは、ケニアを中心にして指導をされているイタリア名コーチです。
彼の指導の下でトレーニングした選手たちは、オリンピックと世界選手権で42個のメダル、12以上の世界記録を獲得したという素晴らしい実績を持つ名コーチ。
かつての日本的な”距離重視”の練習よりも、いかに高いスピードを維持して練習を積むかという部分を大事にしている方でもあります。
高いスピードでいかに走れる距離を伸ばしていくか、持久力を拡大していくか、それをトレーニングの基本原理としています。
「速くなりたければ、速く走れ」
特異性の原理を重視されてます。
以前日本に来日、NHKの番組で日本の中学生(陸上部)に指導された事もあります。
その動画はこちら。(いつまで見られるか分からないので、見れるなら早めに^^;)
それをまとめた記事はこちら。
そんなカノーバさんも、ヒルトレーニングを選手に課す事が多いんです。
上記の動画の中で、中学生にも坂トレーニングをさせてました。
「筋力を高めたいのであれば、繊維を最大限に動員する必要があります。つまり、非常にハードに走らなければなりません」
ヒルトレーニングについて、そんな言葉を残しています。
やはりこちらも特異性を重視。
速く走りたいなら速く走れ、パワーを付けたいなら筋繊維を最大限に動員しろ、と。
なるほど、キツそうです^^;
坂を駆け上がるという事は1歩1歩自分の体重を重力に反して引き上げるのですから、臀部・脚部への強化(下半身の筋力向上)は、平地と比べて相当期待出来ます。
特に速いスピードで駆け上がると、速筋への刺激(筋繊維を最大限に動員)が大きい。
これはジョグなどゆっくりのランニングでは使えない、多くの眠っている筋繊維を使って鍛えられます。
スピードはパワーから生まれる(ダニエルズさん)
坂トレーニングはスピードやパワーを付けるウエイトトレーニングだ(リディアードさん)
通常速筋を鍛える、脚筋力を鍛えるには速いスピードを出して練習する必要があり、着地衝撃が大きくなって故障もしやすい。
しかし坂トレーニングは着地衝撃が比較的少ないですので、故障のリスクを低く抑えながら、速筋や脚筋力を鍛えられるという利点もあります。
速い動きをすると身体に良い走動作を叩き込む事が出来るのは、レペティションと同じ。
加えて坂では、反り腰になったり前かがみ過ぎても速く・力強く登っていけません。
走動作に気をつけながら、疲労感が強すぎない状態で速く駆け上がろうとすると、自然に自分にとって適切な走り方で上がっていけます。
完全どフラットのトラックを主戦場とするランナーにも坂トレーニングが有効というのは、スピードを出すためのパワー養成に加えて、フラットでも走力に大きく関わってくるランニングエコノミーの養成が出来るという点が大きいです。
なのでレペティションと同様、1回1回のレストはしっかり取って走りが崩れないように、常に次の1本が最高の走りになる、そんな心がけが重要。
上りなのでキツいのはキツいのですが、キツすぎてもがくような走りになると、効果は半減です。
大迫傑選手も坂トレーニングを取り入れており、以下の動画で坂を走っています。
その中で大迫選手は坂トレーニングについて、このように語っています。
「坂道をしっかり走れるようになると、基本的なトラックやロードでの体の使い方が分かってくる。坂道は平地で速く走る事の凝縮版」
なるほどと。
やはり大迫選手も坂トレーニングは、ランニングエコノミー的に良い影響があると考えているんだ、という事が分かります。
「ちょっとちょっとげんさん!坂ダッシュって、こんなにゼーハーしてるんだから、心肺への刺激も相当デカいでしょ!Vなんとかってやつ、刺激入るよね!?」
Vなんとか…Vo2maxですね^^;
坂トレーニングって、メチャクチャゼーハーしますし、肺が”ぐあーっ”ってなったりしますよね(笑)
何となくの感覚で、心肺への刺激が入らないほうがおかしいと。
そう思うのも当然です。
どんな形でも、走れば走るための様々な能力は少しずつ向上します。
特にランニング初心者が坂トレーニングなんかを実施すれば、心肺への刺激も多少あるので、脚筋力・ランニングエコノミーの向上と相まって、速く・力強い走りに変わるでしょう。
ただこの坂トレーニング、練習の主な目的は何なのか、という事になります。
・スピードを生むパワーが向上する(ダニエルズさん)
・ランニングエコノミーが向上する(ダニエルズさん)
・スピードやパワーをつけるウェイトトレーニング(リディアードさん)
・フォーム改善を図るドリル(リディアードさん)
・筋力を高めるために筋繊維を最大限に動員出来る(カノーバさん)
・基本的なトラックやロードでの体の使い方が分かってくる(大迫さん)
いません(笑)
いや、正確には心肺への刺激も多少はあるので、例えばリディアードさんが
「わずかではあるが無酸素能力の開発も図れるのだ」
と語っている通り、少しあります^^;
そのVo2max(最大酸素摂取量)の向上を効率的に行うのであれば、安静時からインターバルペースで走り始めて2分後から刺激が始まるという事は、他の記事でお話しました。
そして乳酸除去能力の向上を効率的に行うのであれば、閾値走(LT走)で20分間走るのが、故障のリスクを抑えつつ、1回の練習で最大限効果を得るために有効でした。
それぞれ効果的に刺激を与えるには、それなりのペースで走らないといけない時間は長いです。
そんな練習を差し置いて、疾走時間の短い坂ダッシュで心肺にも大きな効果が得られるなら…
練習は坂ダッシュだけでOKになる(笑)
マラソン練習はそれぞれに目的と効果があり、1つの練習だけ、あるいはいつも同じような練習だけをやっていると、大きな成長は望めません。
「オレは坂ダッシュで速くなったんだ!」
という方がいるのであれば、短い距離の坂ダッシュで得られる心肺への刺激は限定的なので、脚筋力の強化やランニングエコノミーの向上、あるいはその他に実施したポイント練習によってVo2maxやLT値が向上して総合的に走力が伸びた、という理解になると思います。
なお、長い距離の坂トレーニングでは効果が変わってきますので、上記には当てはまらない場合がありますm(_ _)m
「坂での練習なんて、いらないでしょ」
と本気(マジ)で思っていた私(笑)が、2021年の5月から週に2~3回・斜度6%~8%ほどの坂を20秒ほど5~7本駆け上がるトレーニングを継続してみました。
コロナ渦でなかなかレースが無かったので結果が分かりづらかったですが、たまたまラン友さん(フルもハーフも同じくらいの走力を持つライバル)が
「札幌さよならマラソンのハーフに出る」
という事を聞き、急遽2021年11月のハーフマラソンに出場する事にしました。
特に調整も、本格的なトレーニングもしていませんでしたが…
期せずして、5ヶ月実施し続けたヒルトレーニングの驚異的な効果を感じる事に。
気になる方は、札幌さよならマラソンレースレポと…
ヒルトレーニングで得られたに違いない、驚くべき効果などを解説した記事にて。
坂道トレーニングの実施方法は簡単です。
最初は少し緩く、自宅の近くで100m以下で良いので、あまり急坂過ぎない適度な斜度の坂を探します。
公園内の、このような少し長めの坂があれば、安全に実施出来るでしょう。
また公道であっても、歩道と車道が分かれている道であれば、車と接触する可能性も低いので安全に実施出来ますね♪
頑張り度合い的に80%~90%ほどの感じで、坂の下から上まで駆け上がります。
ガムシャラに、フォームが崩れた状態になって駆け上がると効果は半減。
しっかりフォーム・走動作を綺麗に保つ意識を持って上っていってください。
なお
「下りも頑張ればもっと練習効果が高いかも!」
とか
「Vo2maxへの刺激も入れちゃおうかな!」
などと思わないでくださいね^^;
下りで”バンッバンッ”と足音を鳴らすように勢いよく下ると、慣れてない場合あっという間に故障します。
私が経験した事です(笑)
下りはごくゆっくり、しっかり休みながらジョグで下る。
そして次の1本は、しっかり落ち着いてからスタート。
走力レベルや坂ダッシュの経験、そしてその日の状態にもよりますが、2本~10本やれば良いと思います。
日々のジョグの合間や最後にWS(ウインドスプリント)の代わりにやるのであれば3本~5本で充分でしょう。
週に何度か実施しても着地衝撃が少なめなので、故障のリスクは低めですしね。
なお、レベルの高いガチランナーがポイント練習としてレペ的にやるなら、これ。
コーチハドソンを知っている人は坂ダッシュを多用するコーチとして知っているかもしれません。実際にコーチハドソンは、坂ダッシュを多用するコーチです。何故かというと、ランナーにとってのベストな下半身の筋トレは6-8%の傾斜の坂での8秒間から12秒間のスプリントであることに気づいたからです。距離にして50mから80mといったところです。6-8%の傾斜がどのくらいか分からない人はジムに行って、トレッドミルの傾斜を6-8%に設定して、それがどのくらいの傾斜か確認してみると良いと言っています。
短い距離で良いので、少し急な坂道を全力に近いダッシュで駆け上がる。
下りはゆるジョグ。
下りきっても息が乱れていたら、止まって息を整えて再び最高のダッシュが出来る状態になってから次のセットへ。
フェーズにもよりますが、レースから遠いフェーズで集中実施するなら10本や15本やっても良いでしょうし、フェーズが進めばもう少し少なくても良いでしょう。
「坂ダッシュの効果は分かったけど、それがマラソンにどう活きてくるの?」
という疑問。
坂練とインターバル・閾値走・レペなどを総合的に、しっかり練習している場合、何が一番良い影響を及ぼして速くなったのかは、分かりづらいですよね^^;
そもそもマラソンで速くなるには、Vo2max(最大酸素摂取量)や乳酸除去能力が大事なのは間違いないのですが、それだけではないんです。
検査機関でVo2maxを計測してもらって
「Vo2maxは76あるのに、5000mは15分半だ…」
と悩む学生さんがいたりします。(VDOTも76なら5000mは14分切り出来るレベル)
逆に、2021年の大阪国際女子マラソンで2時間52分13秒を記録、マラソン女子60歳以上の世界記録を大幅更新した弓削田真理子さん。
弓削田さんのVo2maxは46.2ml/kg/min。
サブ3の目安とされる60ml/kg/minよりも、大幅に低かったんです。
もしVDOTも46なら、フルマラソンは3時間24分台のレベル。
私(げん)の方が年齢的にずっと若く、おそらくVo2maxも弓削田さんよりもずっと高いと思われます。
なのに、私も苦労するキロ4近辺での巡航をして2時間52分台。本当に驚きます。
何でそんな事が出来るのか。
起伏ジョグ(坂)を中心に月間500km~600km、月によっては700km~800kmもの距離を踏んでスピード練習もしっかり実施する、その量と質の両立がベースになっているのは間違いありません。
エンジン(Vo2max)が大きくても、フルマラソンマラソンを速く走るために必要な能力は様々なものがあり、たとえエンジンは大きくなくても、その他の部分で充分カバー出来る。
そんな希望を、弓削田さんは示してくれたのではないかと感じます。
様々な練習が必要なのは間違いありませんが、坂トレーニングが速くなるための重要な要素の1つとなるのは間違いありません。
加齢で最近スピードが落ちてきた、VDOTが下がっている、もう無理かも…
そんな方であっても、それをカバーして鍛える方法がきっとありますし、強いシニアランナーが実証を示してたりもします。
「坂ばかり走っていたら、筋トレなしで脚筋力がついた」(64歳:2時間54分)
リンク:ランナーズ・オンライン
楽しみながら色々と試してみて、走力のアップを目指していきましょう(^^)