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ファルトレク(Fartlek)とは、自然の地形(アップダウン)を利用し、自由に疾走時間やレストの時間・ペースを決めて走る練習です。
ファルトレクというと、最近だと「アフリカのランナー達がやる練習でしょ!」みたいなイメージを持つ方もいらっしゃると思いますが、その発祥は1940年代のスウェーデン。
何十年も前、スウェーデンの森林と原野で、世界的なトップマイラー(中距離ランナー)になるため、ファルトレクと呼ばれる独自のワークアウトを行っていた2人のランナーがいた。グンダー・ハーグとアルネ・アンデルソンである。ファルトレクというスウェーデン語は、通常「スピードプレイ」と訳される。ファルトレクを広く一般化した2人のランナーは1940年代、1マイル4分の壁に大きく近づいた。
出典:ランニング タフ 世界の名選手を育てたトレーニング75
走る時間や距離・スピードなどを自由に決めて、時計を見ずに”感覚”で走る事を重視する練習です。
このブログでも再三ご紹介している”ダニエルズのランニング・フォーミュラ”では、VDOTというランナーの走力を図る”ものさし”を利用して、自分にとって最適な強度となるペースや距離で、Eペースや閾値走・インターバルなどを実施する練習方法でした。
特に閾値(LT)を改善する閾値走(Threshold session)は、私たちのような市民ランナーから一流選手に至るまで長距離が速くなるためには必須の練習であり、現在でも世界中の多くのトップランナー達も取り入れて実践しています。
常に時計とラップを意識して、ある意味”システマチック”に実施する練習が大部分を占める、ダニエルズさんのトレーニング方法に慣れたランナーにとって、ファルトレクは
・不整地&アップダウンのために、速いラップで走りづらいのではないか
・疾走区間や休息区間のペースが決まっておらず、どう走ったら良いのか分からない
・どのように実施すれば、どういう効果があるのかイマイチ分からないので、やる意味がハッキリと見いだせない
そんな風に思ったりはしないでしょうか。
今回はそんな”ファルトレク”を
「効果あるかも…試しにやってみようかな!」
「たまにはこんな走り方も、楽しいかもな♪」
そう思って頂けるような記事に出来たら良いな~と思います(^^)
記事の内容は以下の動画でも解説しています!
どれくらい長く、速く、ハードな区間を走ればいいのだろう?非常に大切なことだが、ファルトレクに関しては、それはすべてランナー自身によるのだ。
~中略~ 丘の上に気に入った松の木を見つけ、あそこまでハードに走ろう、あるいはフェンスまで、ブッシュ(しげみ)まで、自分の意思で勝手に決められるのだ。
出典:ランニング タフ 世界の名選手を育てたトレーニング75
ファルトレクは全てを自由に決めて実施する練習です。
なので閾値走やインターバルのような”一定のペースで距離を走り、定量的な効果を狙ってやる”というよりは、WSや坂ダッシュで改善が期待されると言われる”ランニングエコノミー”を向上させるような、少し効果を掴みづらい練習かもしれません。
WSや坂ダッシュもそうですが、この手の練習は”練習効果”が明確になっていないと継続出来ないものです。
ファルトレクで期待出来る練習効果について、1つずつ解説していきます。
「え、閾値って閾値走をやる事で向上するやつでしょ?」
と思われるかもしれませんが、タイムトライアルだって、インターバルだって閾値の向上は期待出来ますし…
ファルトレクも同様にLTの向上は望めるんです
ただ閾値走が血中乳酸濃度が急上昇する臨界点であり、そのポイントが最も長い刺激時間(距離)を身体に与える事が出来るので、最も効率的に乳酸処理能力が向上するという事です。(速度がLTより速すぎるとすぐにバテてしまい、距離・刺激時間を多く取れない)
そして、その他の練習(LTより多少強度の低い練習)でも閾値の向上は(閾値走ほど効率的ではないかもしれないですが)期待出来るのです。
そしてファルトレクでは閾値走と異なり、疾走区間に加えてペースを落とす”休息区間”があります。
この休息区間で…
乳酸の再利用を促進する能力の向上も期待出来ます
ファルトレクは閾値走ほどLT向上について効率的ではないかもしれませんが、平地の閾値走では得られない乳酸の再利用能力向上や、様々な刺激を身体に与える良い影響も期待出来ますし、次節以降で解説する効果もあるので、実施に意味があるんです。
ヒルランニングはRトレーニングの一種である。距離の短い坂道を上るきついトレーニングであり、比較的長い休息時間で区切る。ヒルランニングにはレペティションと同様の効果があり、ランニングの経済性が増し、スピードを生むパワーも向上する。
坂ダッシュの記事で詳しく記載していますが、アップダウンのコースで走るという事は、単純に考えて筋力(脚力)アップ・パワー向上が期待出来ることになります。
そして、ダニエルズさんが書籍で記載している通り、
スピードを生むのはパワー
です。
ファルトレクは短距離・短時間の坂ダッシュとは少し異なり、ある程度のスピード・距離で実施しますので、より実戦的なランニングのためのパワーやランニングエコノミーの向上が期待出来ます。
加えて、公道でのハーフマラソンやフルマラソンを走る場合、いくらフラットなコースとはいえ、多少のアップダウンがあるのは普通です。
また一定ペースで走りたくても、どうしても給水所や補給・仲間から応援を受けた際などにペース変化はあります。
短時間で終わる坂ダッシュに加え、長めの時間・距離を走るファルトレクを定期的に実施しておく事によって、Mペースのようなある程度速いペースで巡航中に迎える事になるアップダウンやペース変化に対峙しても、
心身共にほとんど削られる事のない”強さ”を身につける事が出来ます(^^)
この感覚はヒルトレーニングをさほど重視してこなかった人は特に、実際に練習を積んで自分で体験してみると良く分かりますよ♪
ファルトレクは、トラックのワークアウトあるいはロードのリピート(インターバル)のように十分に計画されたものではない。このことが大切なのだ。ランナー、特に競技ランナーは、過度に時計に支配されている。しかし、ファルトレクでは、ランナーはスプリットタイム、km、AT、最大心拍数など気にせず、思いのままに走れるのである。
出典:ランニング タフ 世界の名選手を育てたトレーニング75
ダニエルズ的な練習の多くは、ペースや心拍数・距離で自分に合った、強すぎない強度を図って実施するものですが、どうしても”時計”に頼る部分は多いですよね。
その点ファルトレクは、時計で表示されるペースはほとんど見ません。
何しろ設定は自由なので、自分の体調や気温、コースレイアウト、走力に応じて”感覚”で走る事になります。
フラットな場所で厚底のハイパーバネシューズで走って、SNSで
「○○km、○○分○○秒で走りました!」
「さすが!速ぇーすねっ!!」
「すげーーっす!」
というやり取りがしたい人にとっては、あまり魅力的ではないかもしれません^^;
アップダウン&土や芝は、あまり速いタイムで走れませんからね。
でもそれは”タイムのための練習”であって、自分にとって有益で、本番のレースで速く走るための努力とは少し違いますよね^^;
アップダウンのある場所をラップが速かろうが遅かろうが、感覚や走り方・動きを重要視して走る事がいかに重要か。
そんな事は私が語るまでもなく、東京オリンピック男子マラソンでオリンピック2連覇を果たしたキプチョゲ選手をはじめ、マラソン大国ケニアの聖地”イテン”において長距離トレーニングの主食とも言える練習となっているのを見れば、納得出来るのではないでしょうか。
トレーニングをコンスタントに行っていくための唯一の方法は、きついワークアウトでも、できる限り楽しんでやることだ。ファルトレクはワークアウトの中に遊びの要素があるため、ランニングの質を落とすことなく、いいトレーニングになる。
出典:ランニング タフ 世界の名選手を育てたトレーニング75
いつも決まりきった練習だと飽きがきますし、ラップに支配されて非常に苦しい練習を何年も継続出来るランナーは少ないです。
ある程度の手抜き、多少の緩さ、そして楽しみがないと、私たちのような市民ランナーが長期間に渡ってランニングをするのは難しいですよね。
子供の頃のように、ペースや距離の事などあまり考えずに野山を駆け回る、そんなランニングが出来るのがファルトレク。
一定のペースで走る練習を続けてきたランナーにとって、ペースの変化を持たせて走るトレーニングは思っている以上に楽しく、そして集中力を継続させる事が出来ます。
その上、それでしっかり走力アップするんですから最高です♪
加えて、暑い夏の時期だとタイムを追って走るのは非常にキツいので、ファルトレクで時計を気にせず、感覚で疾走・休息を繰り返すのは心理的にも取り組みやすいです(^^)
ご紹介してきた通り、ファルトレクは自由度の高い練習です。
その練習方法も自由で、本当に千差万別。
ただ、練習のモデルケースがないと”どうやってやれば良いんだ?”って思いますよね^^;
フルマラソンのランナー向けの、代表的なファルトレク・トレーニング方法をご紹介していきます。
ケニアの”イテン”で主に実施されているのが、この1分疾走-1分休息・これを20回繰り返す(計40分のワークアウト)という”ワン・ワン・トゥエンティ”。
もちろん最初は
「40分もファルトレクを実施するのはキツそうだな~(TдT)」
と思うでしょうから、まずは10分~20分の自由なファルトレクでOKです♪
例えば1分疾走-2分休息と休息時間を多めにして5セット・15分実施してみる、慣れてきたら10セット30分にしてみる。
それも慣れてきたら休息時間を短く、1分-1分を5セット10分やってみて、さらに慣れたら10セットにする。
そんな感じで徐々に負荷を上げていくのが良いと思います。
もちろん時間ではなく
「あの大きな木まで疾走しよう」
「あの看板まで休もう」
そんな基準で自由に設定するのもアリです。
これも自由に設定して問題ありません。
ただし注意点として、アップダウンのあるコースで実際に1分-1分のファルトレクを実施してみると分かりますが、短時間の疾走時間だと思ってあまりスピードを出してやると…
早々に両膝に両手をついて、瀕死の状態で止まる事になります(笑)
特に私たちのようなロードを走るランナーにとって、登りをある程度のスピードで駆け上がる時に感じる心拍数の爆上がり、激しい息切れに対しての”慣れ”がありません。
気をつけないと、もの凄くゼーハーして速攻でバテますので注意してくださいね^^;
私たち市民ランナーが実施するのであれば、強度の感覚的に
Mペース-Eペース下限
くらいで充分です(^^)
疾走区間で閾値からインターバルくらいの感覚に入ってくると、なかなかキツいですよ。
慣れてきたら、まずは少ないセット・短時間で、疾走スピードを上げて試してみても面白いです。
1分疾走-1分休息の20セット・40分に慣れたら、設定はそのままで30セット・60分にセット数を増やして1回の練習で身体に与える刺激時間を増加させるのは、一つのやり方です。
また、東京オリンピック男子マラソンで金メダルを獲得して2連覇した、世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ選手は、疾走時間を多めに設定しているファルトレクを実施しているようです。
Sat Aug 12
AM Fartlek: 10min warm up (1.9km), 4x10mins with 2min rest, reps were at right around 3:00/km (2:45-2:50 downhill, 3:10-3:15 uphill) and rest was very slow jogging. 15min easy cool down (2.2km)Eliud Kipchoge – Full Training Log Leading Up To Marathon World Record Attempt
英語で分かりづらいですが、上記のメニューは
1.9kmアップ
10分疾走(下り2’45/km~2’50/km、登り3’10/km~3’15/km)
2分レスト(非常に遅いジョグ)×4本
ダウンジョグ2.2km
となってます。
その他の日には1分疾走(2’45/km)・1分レスト×30本や、3分疾走(3’00/km)・レスト1分×18本など、様々なパターンで実施しているようです。
その他にも様々なファルトレクの実施方法が世界中で実施されていますが、私たち市民ランナーレベルであれば、基本の1分-1分×好きなセット数、あるいはそれを少し応用したメニューで充分効果的だと思います。
もし一流ランナーの様々なファルトレクの方法について学びたいのであれば、今回の記事で何度か引用している書籍「ランニング タフ 世界の名選手を育てたトレーニング75」を取り寄せて勉強してみてください。
ファルトレクのみならず、ロングラン・インターバル・ヒルワークアウト・無酸素性作業閾値の向上についてなど、様々なトレーニングについて興味深い内容になってます。
ただこの書籍は一般書店、amazonなどでは取り扱いがありませんので、気になる方は直接販売元のホームページにてお買い求めくださいね(^^)
ファルトレクについて、その効果や練習方法について解説してきました。
「やりたいけど、近くに森とか良い芝生の場所が無いんだよな~」
そんな都市部にお住まいの方も多いと思います。
そんな方でも日々のジョギングで、行った事のないような場所に行ってみて、適切な芝や土・アップダウンのある場所がないか探してみてください。
ちょっとした公園の一部分でも良いので、芝や土の上を走れそうなところはないものかどうか。
適度にアップダウンのある場所がどこかにないか。
【私がいつも走ってる公園。アスファルトではなく、側道の芝・土の上を走っています。ある程度アップダウンがあるので、ここの側道を利用しても充分ファルトレクが出来ます】
ファルトレクだってジョグだって、何回も何十回も、ジョグだったら何百回、何千回もやるからこそ、どこで走るのかを選ぶというのは思っている以上に積み上がる練習効果に大きな差が出ます。
是非とも適切な、自分だけの練習場や練習コースを見つけて、良きトレーニングをしてくださいね!