マラソンレースに向けたMペースランニングを行う際に重要となるのは、設定ペースで走るときの感覚を定期的に確認することと、設定ペースに対して身体がいかに反応するかを観察することである。その際、長時間の運動、水分喪失と水分補給、ウェアとシューズという点に目を向けることが必要である。
Mペース走とは、本番のレースで予定している”レースペース”で走る練習の事です。
日常的に長い距離を走るロング走のペースは、ジョグ~Eペースのスピードで実施するのが望ましいです。
それが怪我や疲労のリスクを下げ、練習を長い間続けていくことが出来る(練習の継続性)ことが1つ。
加えて、練習で大事なのことがもう1つ。
練習から得ようとする効果は、効果が概ね得られる練習強度の中でも”最低強度”で実施するべきであるという考え方からです。
長い距離をある程度のスピードで走る”スピード持久力”を1回1回の練習で少しずつ積み上げていくには、Mペースなどの速いスピードでももちろん獲得出来ます。
しかしEペースでも生理学的な効果はさほど変わらない事が分かっているため、だったら速いペースで走って怪我や疲労のリスクを取るよりは、少し強度を落とした、比較的安全なEペースで充分、という事になります。
強度として望ましいのは、練習目的を達成できる最も負荷の低い強度である。
Mランニングの主な効果は、メンタル的なもの、つまり設定したペースで走る自身を高めるものと言ってもいい。生理学的な効果はEランニングとまったく変わらない。
しかし本番となる大会やレースが近づいてきたら、実践的なMペース走・マラソンペース走で走るのが大事になってきます。
Mペースランニングにはどんな効果があり、どのようにトレーニングをしたら良いのでしょうか。
Mペース走を実施する際に気をつけるべき注意点も併せて、解説していきます。
目次
ブログの内容は、以下の動画でも解説しています!
マラソンが専門の選手にとって、Mランニングは、走りながら給水(ジェルと水、あるいは糖質と電解質のドリンク)をとるなどの練習ができる格好の機会であり、来るべきレースの準備ができる。
日常的にはEペースまでのスピードで中距離~長距離のトレーニングをしますが、Mペース走は本番のレースが近づいた際に行うトレーニングの位置付けが大きいです。
ダニエルズさんはMペース走の効果について、前述の引用の通り
1.メンタル的なもの(自信を付ける)
2.レースのシュミレーションが出来る(身体の変化や補給のタイミング等)
であるとしています。
しかし”生理学的”な視点から書かれているダニエルズのランニング・フォーミュラでの上記の効果に加えて、“バイオメカニクス”的な効果、つまり下半身の活動筋の強化も当然あります。
Eペースとは全く異なるスピードのMペースでロング走を実施する事により、Eペースで築き上げた土台の上に、速いスピードで長く走る力が付く。
下半身の強化につながるので、筋疲労や筋損傷によって引き起こされる”つり”を予防するような強さも身につける事が出来るはずです。
私の場合は練習で出来ない事は本番でも出来ないタイプのため、普段からMペースのミドル走を実施したり、レースの2~3週間前までに数回はMペースでの長い距離(30km走)を走るトレーニングをするようにしています。
それは「メンタル的なもの」も、レースに向けて確実に上がっていくように感じています。
それではMペース走について、どのように実施するのかを解説していきます。
ダニエルズ方式の練習をする際にはおなじみですが、まずは自分のVDOT(走力レベル)を確認する必要があります。
詳しくはこちらの記事に、自分のVDOTを確認する方法も含めて解説しています。
初めての方はまずこちらの記事をご覧ください。
ご覧になって頂ければ、自分に適切なMペース走のペースが分かると思います。
これで確認出来れば、無事に準備完了。
ダニエルズのランニング・フォーミュラ
例えば
1.E15分→M50分→E10分 や、もう少し走る時間を取るとすれば
2.E45分→M75分→E15分
のような方式です。
その他にも様々なバリエーションが掲載されていますので、気になる方は書籍にて。
もし上記”2″のメニューをEキロ5分、Mが4’15/kmのランナーが実施するなら
E9km→M17.6km→E3km 計29.6km となります。
ダニエルズさんは、Mランニングは時間と距離に上限を設けています。
110分間か29kmのどちらか短いほう
としています。
旧版では90分~150分間、距離25kmとしていましたので、少し変更があったようです。
ただMペース走は日常的な練習メニューというよりは、レース前の大事なポイント練習です。
個々の練習計画や身体の状態を確認の上で、本番の目標タイム達成に向けた”数回だけ実施”の(継続練習ではない)重要な練習ですので、距離・時間の多少の前後は大きく問題にならないと思っています。
個人的には、レース前に3~4回ほどMペースで30km~35kmを走って本番を迎えています。
ダニエルズさんはダニエルズのランニング・フォーミュラ第3版で明示した、Mペース走をEペース走と絡める練習方法の他に、旧版で変化走的なMペース走を提案しています。
すでにマラソンレースを予定しており、設定したタイムに基づいてMペースを決定し(あるいは表から選び)、1時間程度の試走を5~6回行ってきたならば、以下に説明する練習を試してみよう。この練習のトレーニング量は、2時間走か32km走のどちらか早く終了するほうを採用する。
“以下に説明する練習”とは、このような練習です。
1.3km~4kmのウォームアップ
2.MペースよりVDOT3~4ポイント低いペースで20分~30分走る
3.MペースよりVDOT1ポイント高いペースに上げて20分~30分走る
Mペースがキロ5のランナーであれば、
5’20/kmで5km(26分40秒)-4’55/kmで4.5km(22分10秒)
という感じ。
つまりMペースを挟んで、速く走る区間と遅く走る区間を設定して長い距離を走るという事になります。
私はこれまでに、何人かのマラソン選手のトレーニングでこの漸増Mペースランニングを用いてきたが、大変うまくいっている。ペースを変化させるということは、選手にとって特に精神的にこたえるものであるが、レースが近づいているときは自信を深めることができる。
実は私はこの記述にヒントを得て、2020年春に2時間50分切りを目指すに当たり”変化走”を軸にして練習を積み上げ、最後までキロ4イーブンで2時間50分を切れました。
目標達成に至るまでの練習内容と、本番の様子が気になる方は、こちらの記事にて。
一定のMペースで走るより断然キツい漸増Mペースランニング(変化走)ですが、最後までイーブンで行ける力を養える、素晴らしい練習でした。
ダニエルズのランニング・フォーミュラ(旧版) は、現在発行されている第3版では削除されてしまった興味深いコラムや、今回の漸増Mペース走のような「攻めた」記述もあって面白いですよ。
すでに絶版のため新品では手に入らない状態ですが、もし研究したいという事であればamazonなどで中古書籍が安く出品されていますので、取り寄せて参考にしても良いかもしれません。
私は最初に買った1冊がボロボロで線も引きまくってしまったため…
比較的状態の良い2冊目を購入しました^^;
Mペース走は日常的に行っているEペース走よりも負荷が高くて鍛えられ、レースに近い状況(身体の変化や補給・給水のタイミング)を確認出来るため、本番が近づいた時期に実施するのは大変有効だと思います。
ただ市民ランナーの中には、まだ本番はずっと先にも関わらず、毎週Mペースでのロング走をされている方も見受けられます。
川内選手のような強靭な肉体を持っている特別な方なら大丈夫かもしれませんが、私たちのような中高年の一般市民ランナーは、数年は大丈夫かもしれませんが、5年後~10年後に回復不能な怪我や不具合(軟骨がすり減って歩きづらくなるなど)を身体に引き起こすかもしれません。
日常的には身体を労りつつミドルレンジ(15km~20km程度)の距離でのMペースに留めておき、大会が近づいて頑張るべき時にだけ、少し身体に我慢をお願いするような気持ちでMペースのロング走にも挑戦していったら良いのではないかと思いますよ♪