T(閾値)強度は、言わば快適なきつさである。確かに、比較的速く走ってはいるが、そこそこの時間(練習なら20~30分間)維持できる、というペースだ。レースなら、休養をとってピーキングすれば60分間は維持できる。
~中略~
MランニングやEランニングはふつう、上級者ならすぐに終わってほしいと思わないペースだ。Tペースランニングはその逆で、終わるのが待ち遠しいペースであるが、同時にかなりの距離を持ちこたえられるペースである。
閾値走(Tペース走)の目的は、血中の乳酸を除去し十分処理できる濃度に抑える能力を高める、つまり持久力を向上させるために行うもの、というのは、これまで何度かブログでご紹介してきた通りです。
閾値走に初めて取り組むランナーであれば、以下のような閾値ペースでのクルーズインターバルがおすすめであり、
アップジョグ3km+閾値走10分間+2分の休憩+閾値走10分間+ダウンジョグ3km
一般的な市民ランナーであれば、以下のような通常の閾値走を1週間~2週間に1度実施する事がおすすめであるとしてきました。
アップジョグ3km+閾値走20分間+ダウンジョグ3km
今回はもう少し上級者向け、閾値走マニアになるための(笑)もう少し掘り下げた、レベル的に少し高めの閾値走練習について考えていきます。
目次
ブログの内容は、以下の動画でも解説しています!
通常の20分間閾値走を繰り返し実施してきて、フルマラソンのタイムがどんどん向上してきたランナーは、それに伴ってVDOTが向上・閾値走のペースも上がってくるので閾値走の苦しさは永遠に変わりません^^;
それでも
「一層練習の質を上げて頑張っていこう」
という意識の高いランナーに、ダニエルズのランニングフォーミュラでは様々な閾値走の練習バリエーションを用意してくれています。
ダニエルズさんは閾値走で走る上限を20分間としてはいますが、自信があれば、20分間のTランニングを1回で終わらせなくてもよい、としています。
メニュー的には20分の閾値走を休憩3分を挟んで2回実施したり、10~15分の閾値走を休憩2分を挟んで3回実施したり、閾値走の距離(時間)を短くしながら数本実施するやり方など、書籍の中では何種類も示してくれています。
閾値ランニングを重ねる事で、一層の持久力アップに繋がります。
【練習例】
週間走行距離66~113kmのランナー向け
1.閾値走10分~15分・セット間休憩2分 × 3本
2.閾値走16分~20分・セット間休憩3分 × 2本
3.閾値走20分、休憩4分、閾値走10~15分、または閾値走5~6分・セット間休憩1分×2本(オススメ)
下の動画は2016年リオオリンピック5000m銀メダリストのPaul Chelimo選手の閾値トレーニング(Threshold Session)です。
3マイル(約4.8km)+2マイル(約3.2km)の閾値走を実施後、400m2本のレペティションを実施している様子です。
通常の20分間閾値走より少しペースを落とし、長い距離・時間を走る「テンポ走」というバリエーションがあります。
閾値走よりペースを落とすとはいえ長い距離・時間を走るので、調子が悪くても疲れていても何とか勢いで走れてしまう20分間の閾値走より、特にスピードタイプのランナーにとって効果的な練習になります。
テンポ走の目安となるペースは以下の通りです。
VDOT | Tペース | Mペース | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
20分 | 25分 | 30分 | 40分 | 50分 | 60分 | 60分 | |
30 | 6'24(±0) | 6'28(+4) | 6'32(+8) | 6'36(+12) | 6'40(+16) | 6'44(+20) | 6'51(+27) |
35 | 5'40(±0) | 5'44(+4) | 5'47(+7) | 5'51(+11) | 5'55(+15) | 5'59(+19) | 6'04(+24) |
40 | 5'06(±0) | 5'10(+4) | 5'13(+7) | 5'17(+11) | 5'20(+14) | 5'22(+16) | 5'26(+20) |
45 | 4'38(±0) | 4'42(+4) | 4'44(+6) | 4'47(+9) | 4'50(+12) | 4'52(+14) | 4'56(+18) |
50 | 4'15(±0) | 4'18(+3) | 4'21(+6) | 4'24(+9) | 4'26(+11) | 4'29(+13) | 4'31(+16) |
55 | 3'56(±0) | 3'59(+3) | 4'01(+5) | 4'04(+8) | 4'07(+11) | 4'09(+12) | 4'10(+14) |
60 | 3'40(±0) | 3'43(+3) | 3'44(+4) | 3'47(+7) | 3'50(+10) | 3'52(+12) | 3'52(+12) |
65 | 3'26(±0) | 3'29(+3) | 3'30(+4) | 3'33(+7) | 3'36(+10) | 3'38(+12) | 3'37(+11) |
70 | 3'14(±0) | 3'16(+2) | 3'18(+4) | 3'20(+6) | 3'23(+9) | 3'26(+12) | 3'23(+9) |
VDOTのレベルによってペースダウンさせる秒差が異なりますので、自分のVDOTに合わせて実施する事になります。
【練習例】
アップジョグ3km+閾値走40分~60分間+ダウンジョグ3km
以下の動画は、2020年ロンドンマラソン準優勝のSara Hall選手(フルベスト2時間20分32秒)が実施している、8マイル(約12.8km)の閾値トレーニング(Threshold session)と200m×2本のレペティションの様子です。
特にマラソントレーニングに適した方法として、Mランニング中にTランニングを入れる練習もあります。
例えば以下のようなペースで繋ぎ、休憩を挟まずに続けて走ります。
【練習例1】
Mペース10km+閾値走1.5km+Mペース5km+閾値走1.5km+Mペース3km 計21km
MペースからTペースに上げて1km走るのは比較的簡単ですが、少し心拍が上がるTペースからMペースに戻して走り続けるのが結構キツい練習です。
ラストのMペース3kmまで気を抜かず、しっかりペースを維持して走る事が練習効果を高めます。
本番のレース中でも、アップダウンや風の影響で心拍が乱れてゼィハァする場面がありますが、こういう練習をしておくとペースや強度の変化に対応する力が付き、いざという時に動じなくなります。
なおこのメニューを下記のように、高いレベルに向かうランナー向けの強度の高い32km走にするなど、派生も色々と考えられます。
【練習例2】
Mペース15km+閾値走1km+Mペース10km+閾値走1km+Mペース5km 計32km
一般的な閾値走はアップジョグ・閾値走・ダウンジョグを含めても10km前後といったところだと思いますが、それ以外の閾値走をする場合には注意しなければいけないポイントが2つあります。
1.閾値のスピードで走る距離は1回の練習で週間走行距離の10%を超えないことが望ましい※とされていますので、走り過ぎに注意です。
2.閾値走は楽すぎないけどキツすぎない、大きな疲労とダメージを受けにくい練習ですが、閾値ランニングを1日に何本も実施すると疲労とダメージも深くなり「練習の継続性」に難がありますので、自分の身体と相談しながら徐々に練習内容を充実させていってください
-たまによい練習ができることは誰にでもある。しかし、継続性がなければ、実のあるトレーニングとはならない-
「閾値走を入れ込んだ32km走とか、マジでムリゲー(;´Д`)」
と感じるかもしれませんが、どうしても超えられない壁を超えたい時や、サブ3などの高い目標に挑もうとするランナーであれば、挑戦してみるのも大事ですよ。
練習ではいくら失敗しても良いんですから。
そして繰り返しになってしまって恐縮ですが、日々の通常練習では
アップジョグ3km+閾値走20分間+ダウンジョグ3km
で充分です。
高い目標に向かうレース本番の1ヶ月前~2ヶ月前の走力強化期間など、期間限定で一気に走力を上げていく場合に取り入れるのが良いと思います。
とはいえ強度の高い練習。
経験を積んできているランナーであれば当然のように実施しているかもしれませんが、走る前の筋トレや動的ストレッチ、アップジョグの後に数本のWS(ウインドスプリント)を入れておく、練習後もWSや静的ストレッチを入念に行うなど、細心の注意を払ってください。
怪我するときは、どんなに気を付けていても怪我するものですが、後悔はしたくないもの。
強度の高い練習をする際には、準備とケアだけは忘れずにお願いします。